古本屋が世の話題になること自体あまりありませんが、まして古本屋の組織的な活動、その水面下における横のつながりが明るみに出ることはありません。しかし一見それぞれが独立してのんびりと商売を営んでいるように見える古本屋にも、実は同業者同士の横のつながりがあり、経営的にそれに深く依存していたりする場合もあります。そのつながりの一つは古書組合という存在ですが、もう一つに「市会」という存在があります。
市会は同じような分野の本を扱う古本屋の集まりであり、その活動の目的は同業者に対して古書の市場を催すことにあります。この市場は古書交換会とも言われ、自分では扱わない古書を売り、一方では欲しい本を買い、こうした売り買いを通じて古本屋と古書とのマッチングを行う場であると言えます。一般客に対してではなく同業者に対して売り買いを行うわけですから、世の愛書家の間でさえも市会の存在が知られていないのは当然でしょう。そもそもその必要がないからです。
私たち京美会もまたそのような市会の一つです。その名のとおり美術書を扱う京都の古本屋の集まりです。今回、私たちが自分たちのホームページを持ち、同業者のみならず一般のお客様にも自らの存在をアピールしようと考えたのは、一つは私たちが取り扱う「美術書」というものをもっと知ってもらいたいと思ったからです。
美術書といっても、洋紙にカラープリントで印刷・製本されたものばかりではありません。古典籍、浮世絵、木版図案帖、名人画帖、植物図譜、草双紙、書画、美術研究書やその他もろもろが、毎月行われる京美会の市場を彩っています。現代のものに比べ古典が多いのは、江戸時代を通じて一大出版地であったこの京都という場所ならではかもしれません。また木版の図案帖の量が多いのも特色で、京都の染織業界と軌を一にして発展してきたこの会の歴史を物語ります。
京美会の歴史はすでに七十年を越えます。七十年以上も多種多様な美術書を毎月毎月さばいてきたわけですから、美術書に対する同人たちの見識は豊かです。廃れてしまった印刷技法や、かつて時代を彩った意匠について、また埋もれてしまった図案家たちについて、もっとも知る機会に恵まれているのは私たちです。なぜなら私たちが扱うのはまさに、古びた印刷物であり、古びた意匠であり、また忘れられた図案家たちが残した遺物だからです。それらには現代でも充分に通用するものもあり、現代をしのぐものもたくさんあります。木版印刷はその質感において、コロタイプ印刷はその緻密さにおいて、現代の印刷物よりも優れていはいないでしょうか。またかつての美術図案には、斬新で、洒落ていて、ため息のもれるようなものが数多くあります。
私たちはこのたび開設したホームページを通じて、美術書について私たちが知っていることをどんどんと発信していきたいと考えております。そうして一般のお客様に少しでも美術書の魅力をお伝えできれば幸いに存じます。